擬人化王国8のお知らせです。
東2ホールサ34a Lyicoris スペースを取らせていただいております。
新刊?
「Children's story days+extra」 A5 94P
ご本家様のペーパー 勇者根岸からの妄想話+その後おまけコピーの総集編です。
東北上越とうつたか?とひっそり山陽ジュニア。 鉄分のかけらもありません。
サンプルは続きに
「キスの格言」 コピー本 B6 24P
上越上官といろんな人たちとのキスについて
ただ愛されてる上越上官がいればいいと思ったのです。
「ちいさい上官のおはなし(1~5+2.5)」 A5 70P (2012.12月)
今までにコピー本として出した総集編
外見だけ幼くなった上越上官のお話です。
「めばえ」 A5 42P (2012.6月初版 2013.1月再版
東北の情緒が芽生えてBTが喜ぶ話?
サンプルは
こちらからどうぞ
あとはペーパーを置けたらいいなと思ってます。
「ではいつものように頼む」
「りょーかい。まあ二人とも離れるなんて今の時期は無理だし」
「そうだな。最近また活発になってきているようだ」
常に安定することのない世界。王がいても実はその動きを完全に抑えることはできない。近頃の天候の不安定さは自分の領地から離れることを躊躇させるに十分なものだった。
だが、あの式典は国にとって重要なものだ。少なくとも東北が参加しないという選択はあり得ない。
だから無理を押してでも彼を呼び寄せたのだ。上越がいればこの地の安定は保たれるはず。だから、彼が地元からめったに離れる気がないことを知ってはいても呼び寄せた。
上越自身、それがわかっているのだろう。
「こっちは僕がいるから平気でしょ」
仕方ないと肩をすくめながらも、当然の様に安心させる言葉を告げられる。
「ああ」
信頼している、と言えば、上越は面白そうに笑った。
冗談だと思われているのだろうか。しかし、本当に東北にとって彼以上に信頼できる存在はない。他に頼れる相手がいないわけではない。だが、誰よりも信頼しているのは彼なのだ。東北が王として、この世界を明るいものとして見られるようになった理由なら他の存在にもある。しかし、そうでなくとも上越は東北にとって特別な存在だった。彼とともにこの地を治めるようになってから、もうかなりの年月が過ぎ去った。一言では語りつくせない様々な出来事があった。だがいつでも彼が隣にいるからこそ、どんな困難の時にも東北は立っていられた。自分の片割れともいうべき彼は、今自分が自分であるために必要なのだ。甘えているという自覚はある。甘えさせてくれているのもわかっている。だが、それでも彼は自分の物なのだと東北は思っていた。
「あ」
不意に上げられた声に、考えていたことが筒抜けてしまったのかとびくりと肩を揺らめかせる。彼に知られたら恥ずかしいどころの話ではない。どれだけからかわれることか。内心焦る東北だったが、そんなことはお首にも出さずに表面的には片眉を上げるだけにとどめた。
「……なんだ?」
「ついでに予算上げて」
「ついでなのか」
「ついででもなんでもいいよ。こっちに回す予算が上がれば」
あれが活発になってきた、で思い出した。補強したい場所があるんだと上越は予算の使い道について述べていく。あげられるそれは確かに重要な部分だ。今年度の予算配分を思い浮かべながら東北は、回せる予備分について頭の中で算盤をはじく。
「……善処する」
「それって、ごまかす常套句だよね」
「……」
そういうつもりはないが、即答できないことは事実だ。王は実権をもっていても、独裁者ではない。むしろ王であるからこそ全ての者を取りまとめ、平等になるように計らわなければならない。これからのことを考えれば、軽々しく予算を渡すなどとは決して口にできないことだった。
東北の渋面に胸がすいたように笑いながら、あ、とまた上越が声を上げる。
今度は何かと身構えれば、その口から出たのは先ほど話題にした式典に関しての話だった。
「そうそう、長野は連れて行きなよ?」
「ああ。わかった」
そういえばその通りだ。彼は連れて行かなければならない。
長野、とはこの東の国の一部地方を最近治めることになった少年だ。その地方とは他の国――中の国や西の国との境界が近く、それゆえにいろいろな軋轢から身を守らねばならない場所。しかしそこを治めるのは若いというよりもいまだ幼いといえるこどもで、彼が領主となった時に多くの不安の声が上がったのも事実だった。しかしどれだけ幼かろうとその地に選ばれれば領主となる。それはこの国のルールだった。王が王になるための資質として、まずその地に選ばれるかどうかということが挙げられる。王だから世界を安定させられるのではない。世界が選んだから王となるのだ。
その幼い領主は、隣接している地の領主――上越にとてもなついている。己が子どもに好かれることなど考えていなかったらしい上越は始めこそ戸惑っていたものの、今ではそれなりにかわいがっている様子だった。
まだその地位について間もない長野にとって今回が初めての慰霊祭だ。一部には熾烈な争いが起こる場所ではあるものの、確かにそこで学ぶことも多いだろう。醜悪な影の部分は今はまだ気づかせなければよい。
長野を連れて行けという言葉に今後の算段を練っていれば、上越は今度はまた別の名前をあげた。
「あと美味しいものが出るなら秋田や、あとお兄さんも連れて行ってあげたら?」
にやりと笑う上越が何を当てこすっているのかを理解して眉を顰める。
「秋田は多分言われなくてもついてくるだろうが……」
「ああ、さすがに全部食べつくさないようには注意してね」
その言葉には深々と頷く。
東の国の中でも北側の領地を治める同僚。秋田の大食漢ぶりは誰もが知るところだ。外見は普通の青年であるのに、どこにあれだけの量が入るのかと思われる食事が常に彼の目の前には並べられる。
式典自体は食事がメインではないが、立食形式の懇親会がある。それなりの量と質を備える食事は各地の名産品が集まっており、こちらでは珍しいものも多々ある。食べることに並々ならぬ熱意のあるものならば行かなくては損だと思ってしまうだろう。
だから秋田が来るのは予想範囲内のことだ。その彼が会場中の食事を根こそぎ食べかねないのも。だが。
「秋田はともかく。兄は、ああいった場は肩がこるというだろうな」
田舎暮らしの半ば隠居生活をしている東北の兄は、上越とは別の意味で華やかな場所は好まない。それを知っている上越がその名を挙げたのは、東北が兄を大事にしすぎていることをからかったのだろう。
「そうだろうね。まあ聞いてみるだけでも聞いてみたら? とりあえずこっちは山形と僕が何とかしておくよ」
ね。と、頼りになる同僚の存在をあげて微笑む同僚に東北は思わず見とれてしまう。
険の取れた無防備な笑みは、昔から変わりなくただ美しいもので。それを初めて見たときの衝撃を忘れることは一生ないだろうと東北は思っていた。
そして、この綺麗な存在は自分の物なのだと認識したそのときのことを。
「聞いてる?」
耳に心地よい声に頷く。
聞き逃すはずがない。聞き逃せるはずがない。
彼の言葉は全て自分に返ってくるものだ。自分がここにあるために必要なものだ。
そのために彼はいるのだから。
「……土産は何が良い?」
これでは自分ばかりが貰っているようだ。ふとそんなことに気づいて、情けなくなる。せめて何かできることはないかと尋ねれば、柳眉を顰められた。
「そんなもので予算の件は誤魔化されないよ」
「いや、そういうわけでは」
そう言えばそんな話をしていたのだったか。たしかに今土産の話などすれば、誤魔化しと取られても仕方ない。慌てる東北に、しかし同僚は吹き出した。
「なんてね、冗談だよ」
くすくすと笑う上越は、珍しく機嫌が良い様子だ。これが機嫌の悪い時ならば、自分を小さなこどもとでも思ってるのかと怒った揚句無理難題を言いつけてくるに違いない。
土産物ねえ、と小首をかしげた上越は何を考えているのだろうか。やがてにっこりと笑みを浮かべた。
「決まった」
「なんだ」
「君」
「……」
ぽかんと自分の口が開いたのがわかった。
「早く帰ってきて」
早く、あの場所から抜け出して帰ってきて。
土産より何より君が帰ってくることが重要なんだ。
思いもよらない言葉に間抜けヅラを晒していたのだろう、彼はやがて大きく吹き出した。
「何考えてるの。別に新婚の若奥さんが『寂しいから早く帰ってきてねだーりん』とか言ってるわけじゃないんだからさ」
声色を変えて言われるがそんなことを本当に告げられた日には全身鳥肌がたつだろう。嫌というわけではない。だが、何をたくらんでいるのかという恐ろしさに。
苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる東北を見て呆れたように上越は付け加えた。
「仕事が滞らないうちに帰ってきなよって言ってるの」
「……ああ、なるほど」
天の邪鬼な彼の本音など読みとることはできないが、それは少なくとも本音の一部なのだろう。
だからこちらは素直に東北は答えた。
「なるべく早く戻る」
「うん、待ってるよ」
~中略~
「僕を喚んだのは君?」
軽やかな声は性別を感じさせない。
ぽかんと東北は自分の所業の結果を見つめていた。
そうだ。自分が望んだはずの存在がそこにいるのだ。
首をかしげたその存在は、東北の反応のなさに言葉が通じていないと思ったのだろう。今度は違う言葉で問いかけてくる。
自分を喚んだのは誰なのかと。
実際のところ東北はそのどちらの言葉も知っていた。物ごころついたときからその立場にふさわしい存在であれと育てられてきたのだ。
返答できなかったのはだから、その声ばかりに気を取られて、意味を理解することを忘れていたから。
だから、やはり通じないのかと表情を険しくした彼に、今までのやり取りを振り返って、東北は慌てて頷いた。
すれば彼はふうん、と尋ねたわりにはどうでもいいように相槌を打った。
そして呟かれた言葉に、東北は耳を疑った。
「なんだ。こんなこどもか」
その言葉を正確に理解するのには数瞬の間が必要だった。
そして理解してしまえば。馬鹿にされたのだと、かっと身体が火照る。
そんな反応も仕方ないだろう。
なぜならそういう彼こそ、自分と同じくらい、いやもしかしたら自分よりも幼い風体をしていたのだから。
「おまえだって」
言いかければ、馬鹿にしたように笑われる。
「なにを笑う」
「当然じゃないか」
「何が」
「だから僕がこんな姿でいる理由さ」
僕は君に喚ばれたんだもの。
両腕を広げて、こんな、と自分の姿を指し示す彼は、見目は大変に麗しいものの幼いこどもにしか見えない。まさか異世界から喚ばれた存在などと考えるものはいないだろう。しかし、まぎれもなく彼は異世界の住人で。今は東北に喚ばれてこちらに現れたのだ。
「……どういうことだ?」
こともなげに告げられる言葉に目を瞬かせれば、知らなかったのかと肩をすくめられる。
「僕らの力はこちらに来るには大きすぎるからね。喚びだしたものにふさわしい力しか出せないよ」
だから君が制御できる姿で存在するのだと。
そう言われて理解する。確かに自分が喚びだした存在でこちらの世界のバランスを崩してしまう様な事があってはならない。それは自分の存在を否定するようなものだ。だいたい彼を呼び出したのは大きな力を借りるためではない。だからその幼い姿にも失望などするはずもなかった。
しかし、それならば。
「本当はもっと綺麗なのか」
「……はい?」
今でさえ十分に目を奪う存在なのだ。だとしたら本当の彼というのはどこまで美しいのだろう。
問いかければ、なんでそんなことを聞くのかと不思議そうにしている。もしかしたら彼は自分の美しさを自覚していないのだろうか。
「いや待て。僕の外見がどう関係あるの」
「そうか。そういえばそうだな」
「……君、変だって言われない?」
「たまに言われるな。よくわからないが」
頷けば何か奇妙なものを見るような眼を向けられる。どうしたのだろう。
うーん、と何事か考えた彼はやがて軽く首を振った。
「まあいいか。で、契約は?」
言われて、気づく。
そうだ。今の時点ではまだ呼んだだけにしか過ぎない。彼を縛るものも何もない。このまま元の世界へと戻ってしまえば二度と会えないとも限らないのだ。
それは嫌だ。
こんな綺麗な存在が、自分を見てくれているというのに。
「どうしたらいい?」
せめて彼に良い方法で契約ができれば。そんな思いをもって尋ねれば、きょとんと幼い瞳が向けられる。
これも自分に合わせた仕草なのだろうか。
首をかしげた少年は、逆に問い返してきた。
「君は何を願うの?」
「俺?」
「君には今何が必要?」
問われて考える。
自分がしなければならないことはこの国の民が幸せであるようにこの地を安定させること。そのために、力は欲しい。それは当たり前のことだ。
しかし、問われているのはそれではない気がした。
王としてではない。自分の本当の言葉を告げる。
「俺の味方になってくれ」
俺の唯一のものになってほしい。
そうすれば、しかし彼はそれがひどく困難であるというように眉を顰めた。
間違ったのだろうか。いつの間にかぎゅっと胸元を押さえていることに気づいて東北は手をおろす。
「……駄目か?」
「それがいいの?」
「難しいことだと思うが」
安定しない国土。まとまらない中枢。この国を立て直しまとめて行くことには強い風当たりの中を進まなければいけない。そしてその中心にいるのはいつでも自分のはずだった。そういう存在であるべきだと思っていた。
「もっと何かないの?」
だから問われてもそれ以外に思うことはない。首を振った。
「……そう」
少し考えるように空を見上げて、しかしあっさりと彼は頷いた。初めて向けられる笑みは、外見相応の無邪気なものだった。
「うん、わかった。じゃあ契約を、わが君」

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