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関西在住なのに東日本に思いを寄せる今日この頃 鉄分はほとんどありません…

   

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10月の拍手お礼会話文+


調子に乗って小さい上越上官シリーズ


 小さい上越の服装にまつわるある日。

 
 ある日に至る前 (東海道と上越と秋田)

 最初に彼を見たときはパニックに陥って山形の背中に隠れるようにしていたJRの王様も、その中身が以前と変わらないと知ればまったく物怖じせずに、というより普段と変わらず姿の変わった同僚に応対するようになっていた。どうしてもその変わった姿を考慮してしまう他の同僚とは違った王様のその行動は、上越にとってひどくお気に召すものであったらしい。今日も今日とて眉間を険しくする王様に、その愛らしい姿でにこにことからかいめいた笑みを見せていた。

「なんだその格好は」
「とーかいどーがせいふくきろっていったんじゃない」
「誰も他人の服を着ろとは言っていないだろう!」
「ぼくのをきたらもっとたいへんなことになるとおもうんだけど。ながかみしもじゃあるまいしさ。あ、なに? もしかしてうわぎだけきたじょうたいでなまあしだせって? やだなー、どこからそんなまにあっくなことおぼえたの。ってああ、そういえばおもいだしたよごめん、えつこのあれかなりしょっくだったんだって?」
「ああああああれは!」
「ま、それはじょうだんとして。だいはしょうをかねるっていうし、いまはながのがいちばんしんちょうちかいしね。いつまでもしふくでうろうろするのもまずいかとおもったんだけど、これじゃあんまりいみなかったか。おってるのにそでがずりおちてきて、てがでなくてじゃま。ズボンもおちてくるし」
「……おまえでも体裁など考えているのか」
「いつもながらきみしつれいだよね」
「いつも制服をまともに着ないやつが言う台詞か」
「みうちいがいがいるばではちゃんときてるよ。それこそいげんもなにもないじゃない」

 小さくとも相変わらずBTをからかうことは忘れない上越だが、傍から見ていれば小さな子どもと同レベルで言いあっている大人の姿はひどく不釣り合いだ。それも含めて上越は今の状況を楽しんでいるのだろう。そんな二人を見て考え込んでいた秋田だったが、ふむ、と頷くと携帯電話を取り出した。

「ねえ上越。こっち見て」
「え?」

 カシャ!

「ちょっと、なにいきなり」
「解決方法があるかもなって思ってさ」
「え、まって、それどこかにおくるの? やめてよ」
「大丈夫、君も東海道もあと周りも。三方よしの結果になると思うよ」

 それこそ三方よしの商人ばりによそいきの笑顔を浮かべた秋田に、きょとんと無防備な表情で上越は首をかしげた。



 そしてある日の前日

 宿舎の自室に向かう途中。ずりずりという不思議な音がするのに気づいて東北は視線をさまよわせた。すると廊下の陰から見えた姿。そこには自分の両手にやっと抱えられるだろう大きさの荷物を一生懸命引っ張っている今は小さな同僚の姿があった。声をかけることも忘れてその様子をただじっと見つめていれば、ふう、と息をついて視線を上げた彼は、立ち尽くしていた東北に気付いてふっと表情を緩めた。

「あ、ちょうどよかった。とうほく、てつだって。ちょっとつかれた」
「……なんだこの段ボールは」
「わからないけど、うちのししゃからだからあやしいものじゃないとおもうよ」
「ここまで一人で持ってきたのか?」
「ううん、うちのしょくいんさんがはこんでくれてたんだけど、ひとつまだつみのこしがあったってさっきもってきてくれたんだ。もうおそいし、さすがにわるいからこれだけはじぶんではこぼうとおもって。といってもしたからここまでだけだけど」
「……これだけじゃないのか?」
「ほかはもうぜんぶぼくのへやにはこんでもらった」
「……誰かを部屋に入れたのか?」
「……なにをかんがえてるの?」
「……」
「とりあえずはこんで」
「ああ」

 示された荷物を手にする。それほど重いものではなかったが、小さくなってしまった姿でこれを運ぶのは確かに骨が折れるだろう。それにしてもいったいなんだというのだろう。心当たりもなさそうなのに、まったく無警戒な上越になにかもやもやとしたものを感じる。それが半ば八つ当たりに近い苛立ちだということを東北が気づくことはなかったが。

「ありがと、こっちにおいてくれる?」
「……なんだ、この段ボールの山は」
「だからうちのししゃからおくられてきたの。ぼくもさっきかえってきたところだからまだなかみはしらないよ」
「品名は書かれていないのか」
「それがないんだよね。なんでだろう、われものじゃないみたいだけど」
「カッターは?」
「なに、あけてくれるの?」
「これを全部開けるのは大変だろう」
「まあね、じゃおねがいするよ」

 とてとてと、室内を移動した上越からカッターを受け取った東北が段ボール箱すべてを開けるのにそれから数分。出てきたものに、二人ともが目を丸くした。



 そしてある日の朝

 早朝から叩かれた扉の音で目を覚ました東北は、目の前で顔を顰めている同僚の姿に可愛い顔がもったいないな、と思うほどにはまだ目が覚めていなかった。

「おはよう」
「……ああ」
「……」
「何をふてくされている」
「……」
「言いたいことがあるなら言え」
「これ」
「?」
「留めて」

 ぶん、と勢いよく差し出された手を見れば、そこにあるのは袖の片方だけ通されたカフスボタン。飾り気のないシンプルなそれが、しかしよい品であることは、そう言ったことにあまり興味のない東北にも見て取れた。そして、それが子どもの手には扱いにくい品であるだろうことも。

「……一人ではつけにくそうだな」
「だからきみにたのんでるんだろう」
「そうか、わかった」
「つけかたちがう。そでのうちがわあわせるの」
「……? これでいいのか」
「そう、ありがと」
「もっと別の服にすればよかったんじゃないのか?」

 ほっと安心したような笑みを浮かべる上越についつぶやく。一人で着られないことに苛立っていたのだろうが、ならば他にも服はあるではないか。
 昨日。山と積まれた段ボールの中身は、ほとんどが身につけるものだった。普段使いの服や靴、これからの季節を思ってなのか手袋やマフラー、コートなど、どう調べたのかぴったりと上越のサイズにあうものが段ボールいっぱいに詰められていたのだ。しかしそれだけならまだ二人とも驚くだけで済んだ。驚くだけ、というには語弊があるかもしれないが、少なくともこれを見た瞬間東北が感じたのは、感心だけでない、いっそ恐怖に近いものだった。

「でもとうかいどうもこれでなっとくするとおもうんだよね」
「よく準備できたものだ」
「ほんとうにね、おーだーめいどなのはとうぜんだけど、これってきじもほんものみたいだし」

 濃緑の制服。それは限られたものにしか与えられない、特別なもの。個々に合わせられ作られるそれは、けっして個人的に作れるものでもないはずなのに。
 それを用意できたことにただ感心して笑みを浮かべる上越の横で、東北は彼に向けられる強い愛情をひしひしと感じて背中がひやりとしたのだった。
 そして、その愛情を受け取ってもらえることに、場違いとわかっていても嫉妬を覚えられずにいられなかった。

「……俺が用意すれば着るか?」
「え?」
「なんでもない」
「? ありがと、じゃあぼくさきにいくね」
「ああ」

 もし、あれほど無邪気に喜んでもらえるのなら、今度服を贈るのも良いのかもしれない。
 上越が喜んだのは贈られた相手が自分の路線で働く職員だから、という理由は無視して東北はそんなことを考える。
 姿が変わって以降、どこか沈みがちな表情を見せることもある上越に、自分が何かできるのならば、と。
 そう殊勝にも思いやる気持ちでいた東北は、だが。とふと聞いたことのある説を思い出した。

「服を贈るのはそれを脱がせたいからだったか……?」


 東日本を背負う彼が呟いたその言葉を聞く者がいなかったのは、誰にとっても僥倖だったのかもしれなかった。





10月のとある日


「とりっくおあとりーと!」
 朝っぱらから自室へ襲撃してきた同僚の姿に、東日本の稼ぎ頭はいまだ寝ぼけていた目を瞬かせた。
 そのまま数十センチもの差をものともせず二人は見つめあう。しかしそれも数瞬のこと。
「ひゃあ?!」
 自分の身に起きた事態を把握すると、東北は目の前の小さな体を抱えて自室の奥へと舞い戻った。
「ちょっとなにいきなり!」
 部屋の真ん中に投げ出すようにおろされて、ぺたりと座り込んだこどもが文句を言うが、それはこちらの台詞だと東北は言いたかった。
 時計を見ればまだ出勤時間には幾分余裕がある。
 つまり、まだ人通りの少ない時分だということだが、何を思って彼はこんな恰好で自分のところにやってきたというのか。
 むうっと口をへの字にして見上げてくる同僚に怖れどころか愛らしさしか覚えない東北は、視線を合わせるように自分もどっかりとその場に腰をおろした。
「……なんだその格好は」
「せいそう」
 さらりと答える上越は、それがどうした、とでもいうように堂々とした態度だ。確かに正装であり盛装だろう。本日の行事など何の興味もなかった東北だが、そういうものがある、ということは秋田や長野たち同僚が世間話として口にしていたのを聞いていた。
 だがしかし、なぜ今こうしているというのか。だいたいこの服はどうしたというのだ。
 そんな東北の疑問を表情から読みとったのだろう、上越はこの間の段ボール箱。とその出所を説明した。
「さいしょはなにかとおもったんだけど、ひとつひとつどういうときにきるとか、きちんとせつめいがきがあったんだよね」
 段ボール箱に詰められた、上越のための衣料品。それは一年を通して使用するとしても過度なほどの量で、あの場ではとりあえず必要なものを取り出すだけで、東北は全てを確認したわけではなかった。
 だが。
「こんなものも入っていたのか」
 目の前のこどもの衣装にまたも感心以外の感情が頭をもたげる。
 これを送ってきたやつらはいったい何を考えているというのだ。
 まさか撮影会でもしたかったわけでもないだろうが、これを着た上越が自分たちの元へとサービスしにくるとでも思ったというのか。
 ついでに言わせてもらうならば、この姿をさらして無事でいられると思ったというのか。
 悪態は心の中だけであったので、そんな東北の考えが伝わることはない。疑問は解消したであろうに、さらに眉間にしわを寄せる東北に不思議そうに首を傾げた上越だったが、本来の目的を思い出したのだろう。体勢を立て直して同僚の眉間を指でつついたかと思うと、にっこりと楽しげな笑みを浮かべた。
「で、とりっくおあとりーと?」
 おかしをくれなきゃいたずらするぞ。
 日本でも近頃は有名になっているその行事。膝まで覆う黒いフードケープに身を包んだこどもは、近寄ったときの膝立ちの姿勢のまま東北の腿に白く小さな手をついて、その険しい顔を見上げるようにして笑った。
 まったく他意などないのだろう。しかし、その体勢はこどもといえど妙に艶めかしく、これが元の姿であれば自制など何の意味もないに違いないと思わせるものだった。
 幸いにもこどもの姿であるためにため息をつくだけで済んだのは、お互いにとって幸運だったに違いない。
 ねだられる物の在処を思い出しながら、東北はこどもに尋ねた。
「……秋田用のでいいか?」
「それでもいいけど、秋田に怒られるのは君だけにしてね」
「……」
 可愛らしい表情とは裏腹の言葉に渋面を作る。
 本当はそんなものなど欲しくもないくせに、特に甘いものなど好物としていないのにいったい何をたくらんでいるのか。悪戯をするために来たというのならば、いっそもうしてしまえばいいのだ。
 知らないものが見ればただ無邪気にしか見えない笑みを見せるこどもにそう思いながら、東北はふと閃いた考えを試す気になった。
「トリックオアトリート?」
「え?」
「おまえは何か用意しているのか?」
「……」
 ぽかん、とこどもは呆気にとられた表情を浮かべている。
 東北がそう返してくるとは思っていなかったらしい。意外に抜けているところのある上越のことだ。自分が何かしようと思ってもされることは考えていなかったのだろう。
 ならば、と東北は自分をからかって遊ぼうとしている同僚へと手を伸ばした。
 まずは手始めに、ぺらりと目の前のケープの端を持ち上げてみる。
 すれば、何をされるのか咄嗟に対応できなかったこどもも、自分の衣服を掴む手を押さえてその持ち主を睨みつけた。
「なにする?!」
「中身がどうなっているのかと思って」
「このむっつり!」
「そんなことはよく知っているだろう」
「ちょっとまった! なにするき?」
「とりあえず剝く」

 ぎゃーぎゃーと色気なく騒ぐこどもの服を掴みながら、東北はさて制服を取りにいくのはいつにするかと考えていた。


 これを贈った者たちは上越に対して、どういう時に着るのかではなくどういう時に着てはいけないのかを書くべきだったらしい。それを知ることは誰にもできなかったので、これからこどもは幾度となくしっぺ返しを食らうのだが。
 それを知ることこそ誰にも不可能だった。

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