あなたが落としたのはどの○○ですか?
パターンA
「どれがあなたの落とした上越ですか?」
「上越だ」
「だからどの?」
「上越ならばどの上越も貰っていく」
「それはできません。それぞれ別々の上越ですから」
「それは上越とは言わないだろう。あれがあれのままならどの姿でもかまわない。すべて俺のだ」
●独占欲強いパターン
パターンB
「どれがあなたの落とした上越ですか?」
「俺が落とすわけがない」
「では、この上越はあなたが落としたのではないのですね」
「ああ。あいつが誰かに落とされるわけもない。落ちたのだとしたら自分の意志だろう」
「では、拾わないと?」
「自分の責任だ。俺が何かすることこそあいつは嫌がるだろう」
「……君ねえ!」
乗客の忘れ物らしい絵本を読んだ秋田は、その中に出てきた問いかけをこの同僚にしたことを今更ながらに悔やんでいた。この場に話題にされた当人がいなかったことはまだしも幸いというべきだったのかもしれない。
「なんだ?」
声を荒げられても全く動じない同僚にさらに苛立ちがわく。
自分が問いかけたのはそんな答えを期待してのことではなかったのだ。
いつもいつも。相手に対する感情が見えないこの同僚の本音を聞きたかっただけなのに。
「君自身の意志はどうなのさ! 上越が落っこちても平気だっていうの?!」
「俺の意志がどう関係するんだ。俺がどう思おうとあいつの意志を尊重するだけだ」
言いきる東北は、結局上越に対する思いなど表に出しはしない。
それが、自分たちの前でだけだというならむしろ秋田はそれでよかった。
だがしかし、当の本人にさえ伝えることはないのだ。それが、彼をどれだけ苦しめているかなど東北は考えつきもしないのだろう。そして、上越自身それを表に出すことなど彼自身のプライドが許せないに違いない。
もっと素直に自分の気持ちを差し出し合えば、幸せなどすぐ目の前にあるものを。
すれ違う二人に歯噛みする秋田の横で、山形は己が繋がる相手のその拳が問いかけられたときからずっと硬く握られているのに気付いて、眦を緩めていた。

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